父親の記憶と重なる缶ピース

事情があって幼くして生別することになった父親は、ヘビースモーカーでした。

今でこそ『スムースビップ』という電子タバコを使っていますけど、いつも家の中にはピースの空き缶が転がっていて、子供心にデザイン性に優れたその缶は、別の空き缶とはまるで違う趣でしたね。

空き缶はいろいろなものに利用しました。

そのまま鉛筆立てにしたり、底に錐で穴をいくつか空けて吸殻入れとして、家のブロックに取り付けてみたり。

枚挙に暇がありませんでした。

しかし、ピースの空き缶が当たり前に家の中にある暮らしも、父親が家を出てからは途絶えました。

家にはタバコを吸う人間は他にいませんでしたから、同時にタバコの香りも部屋からしなくなりました。

なので私にとってタバコの思い出は、いなくなった父の思い出と重なるところがあり、タバコの吸える年齢になったら、缶ピースを真っ先に買うつもりでいました。

そして、同じことは兄弟誰しもが考えていたらしく、まずは一番上の兄が大学に入ったとき、パチンコの景品で取ってきたのが缶ピースでした。

懐かしかったですね。

缶の大きさ、濃紺のパッケージ、父が家にいた頃が鮮明に蘇りました。

兄には吸い終わるより先に缶を空にしてもらい、欲しくて仕方のなかった空き缶を再び筆立てにしました。

小学生以来です。

2番目の兄が大学に入ったときもまったく同じ。

長兄と違い次兄はちょっと不良がかったところがあり、早くから隠れてタバコは吸っていたようですが、缶ピースだけは手を出さなかったと打ち明けられました。

そして、いよいよ自分の番です。

二人の兄と違い成績も悪く、浪人の苦労をしてようやく大学に合格できた時、まずはパチンコ屋に行きました。

ところが、ようやく球を出したものの、景品に缶ピースは置いてありませんでした。

他の銘柄では仕方ないので、景品を換金してタバコ屋へ急ぎました。

2缶買いました。

子供の頃父親がしていたように、缶から取り出したピースに、マッチで擦った火をあてて、渋めの顔をしながらうまそうにのむあの瞬間を、ついに自分も真似ることが出来た!

その瞬間は、いわくいいがたい気持ちになりました。

タバコの煙が自分の部屋に昇っただけで、大人の階段を上ったという感慨に耽ることが出来たと共に、父親がいないことから来ていたであろう長い間の欠落感がその瞬間、ふうっと消えてなくなったのです。

理屈を抜きにして、父親を感じたようにも思いました。

それからは健康被害を顧みず、缶ピースを月に2缶買いこんで今日に到っています。

気まぐれで吸っているタバコほど悪いものは無い

私はタバコを吸っている人が身内に無く、小さい頃からタバコは悪いイメージでしか無く、病気になるなどの怖い情報しか知りませんでした。

さらに、小学校低学年の時は、私の腕に、近くにタバコを吸っていた人のタバコの先が腕に当たって火傷をした事もあったので、全くタバコについて良い印象はありませんでした。

よく教科書で見る肺の色も、自分の肺はこうならないと信じ込んでいました。

しかし、沢山の子供達は、タバコは悪い物だと教わって育つのに、なぜ手を出すのでしょう。

私も、19歳の時に手を出しました。

とにかく良かった事は、中毒にはならなかった事です。

喫煙者の友達から興味本位で一本もらい、『絶対に癖にならない』と言い、吸って見ました。

確かに、だからと言って、もっと吸いたい気分にならなかったのが幸いです。

それから20代前半は、パーティーや、バー、お酒のあるイベントでは、喫煙者が近くに居れば、一本貰って吸っていました。

なので、私の基本的なタバコの量は、約2週間に一本でした。

しかし、タバコを売る方も頭が良く、あるバーで楽しんでいると、タバコが一箱200円で買えるクーポンを貰いました。

喫煙者から毎回一本貰うのも失礼だから、この機会に一箱買いました。

すると、それから私のアパートのポストにクーポンが定期的に来るようになり、期限までに使わなければと、合計8箱は買いました。

それから夜中に気分が晴れない日は、外に出てタバコを吸い、友達と電話で話したり、外の空気を吸うついでに吸ったりと、気づけば週一のペースで吸い始めました。

そこで、健康に悪い事を思い出し、一度タバコを辞める事にしました。

しばらくタバコを吸わない生活はすごく快適でしたし、肺もスッキリしているような気分でした。

しかし、私の新しい職場の上司がタバコを吸う女性で、忙しいと『我慢できない』と外に出て一服していました。

仕事に慣れ仲良くなると、仕事で忙しい日に一緒に一本吸おうと誘われ、吸ってしまいました。

私のアパートにはまだ残りのタバコがあったので、それからはそれを一緒に吸う様になり、結局禁煙をした事を忘れていました。

もちろん、頭の中では体に悪い事を知っていたし、次の日タバコくさい自分に後悔していました。

しかし、ある時私はもう絶対に吸わないと言うきっかけができました。

それは、大学のダンスの先生のお別れパーティーへ行った時です。

バーで座っていたのですが、私は人見知りなので、素直に会話に入れないので、暇を紛らわす様に周りの人たちとずっとタバコを吸っていました。

その夜は合計8本は吸っていたと思います。

その夜はお酒に酔い、帰宅しました。

そしてその晩、寝ようとしても自分の手がタバコ臭くて眠れませんでした。

手を10回以上石鹸で洗ってもタバコの匂いは消えず、私は次の日持っていたタバコを全て捨てて、持っていたライターは全て仕事の上司にあげ、もう吸わないと決めました。

それから私は一本もタバコを吸っていません。

タバコを吸っている人も、嫌な煙の匂いを思い出して近づかなくなりました。

タバコは『中毒』で無いからこそ、気づいたら沢山吸っている、という怖さを学びました。

吸いたい人は思い切り吸えば良いと思いますが、私は辞めて良かったと思っています。